2021長野の子ども白書① 母・匿名希望 『「ギフティッド?」「17歳で逝った息子」とその母が伝えたいこと(続編)』

 5年前、私の当時17歳の息子は、友達がたくさんいて部活では選手、キャプテンで活躍し、充実した高校生活を送っているように見えたが、突然自死を選びました。理由を知りたい、同じ悲劇が起こってほしくない想いでやみくもに行動し、訴えてはがっかりの繰り返しの4年間でした。そして、私は運の悪い息子の人生を知ってほしいと、勇気をふりしぼり2020年長野の子ども白書』(リンク先に掲載)に迷い苦しみながら書きました。新聞で大きく取り上げていただいたこともあり、反響が怖くもあり、少しの期待もありました。

しかし、予想に反して、私に何か意見を言ってくださる専門家はほとんどなく、その「静かさ」はまた不気味で不安でもありました。


◇『ギフティッド その誤診と重複診断』

「子ども白書」発売から数日して、新聞記事と手記を読まれた上越教育大の⻆谷詩織准教授という方から、お手紙とご自身が翻訳された『ギフティッド その誤診と重複診断』という厚い本が届きました。

 

 お手紙には 「手記から感じ取れるお子様の様子が、この本に出てくる多くの子どもたちと重なる部分が多すぎると感じました。『じっとしていることができない・育て方が悪いと周囲から言われた・先生の叱責すべてが自分のことと感じ、クマを作って登校している・繊細で傷つきやすいがんばり屋・正義感が強い・発達障害と診断された・勉強ができる・スポーツができる・仲間からしたわれている・先生の理解を得られない・誰のせいでもない苦悩・そして最後の9歳時の文章から感じられるやさしさ』 ひとつひとつが私の頭と心に突き刺さりました。この本を通してお母様の心に、また心の中に生きておられるお子様との関係に、そしてお母様の歩みに、小さくても新しい光が生まれてくれればという願いもあります。どれほど勇気を持って書かれたのかを思うと心からの敬意と感謝にあふれます(抜粋)」 と書いてあり胸があつくなりました。

今まで学校から苦情を言われてきたが、息子の良さをわかってくださったと、救われた思いでした。

 

他にもあてはまるのは、「エネルギーあふれる・喜怒哀楽すべてが激しい・頭の回転が速い・多趣味・読書家・好奇心が強い・並外れた習得力・集中力・記憶力・創造力・ユーモアセンス・完璧主義・意思が強い・こだわりが強い・かんしゃく・空気が読めない・感覚過敏と鈍感・アスペルガー症候群やADHD(注意欠陥・多動性障害)と言われた……」等々、ずっと線を引きながら読み、息子に会えた気がしました。「発達障害」と診断され、そのせいだと思っていました。40年前、アメリカの17歳のギフティッドの少年の自死がこの本の原著が書かれたきっかけと知り、初めて知る「ギフティッド」の存在に大きな衝撃を受けました。

 

⻆谷先生が私の手記に目を止めてくださったのは、熱意ある新聞記事があったからです。マスコミの力は大きく、おかげでご自分の専門的見地から私に連絡を下さる方に出会えたのだと感謝しています。そして、女性記者は、⻆谷先生と私のオンライン対談(リンク先に掲載)を設営してくださり、前に進めた気がしました。

 


◇⻆谷詩織さんとの対談

 最初に⻆谷先生は「もっと早くお母様に本書をお届けできていれば……。間に合わなかったと無念の涙が出ました」とおっしゃいました。いくつかの印象的だった対話です。

 

(1)

⻆谷「ギフティッド児は幼少期から感受性が強く身近な人の辛さを我が事のように感じ、当の本人以上に号泣することもある」

私「低学年から、転入生が来ると心配しすぎてその子の周りをずっとウロウロしたり、転出する子にはしがみついて泣き崩れ何時間も号泣したり、慈悲深くニュースや弱い立場の人に心痛め、孤立する子に寄り添った」

 

(2)

⻆谷「正義感が強く、社会問題、不公平さに関心を示す。一筋縄ではいかず、納得できないこと、特に権威を振りかざし従わせようとする者にものすごく反発する」

私「友達のため、いじめた相手や理不尽な教師に強く抗議、反抗した。教師に人格を疑われたり否定され自暴自棄になり『勉強しても将来意味がないからやめる』と投げ出した。授業中は本を出さず寝ていたり、連絡帳いっぱいに『無駄 無駄……』と書いてあった」

 

(3)

⻆谷「優秀なのに自己評価は、できないところベース……人に助けを求めるのが苦手で、弱み、悩みを隠すのが上手」

私「得意がたくさんあるのに自分はまったくできると思ってなく自己評価が低い。友達は助ける強い勇気があるのに自分が困っていることを周りに言えなかった」

 

(4)

⻆谷「エネルギーにあふれていることを『じっとできない』と評価されるとADHDと誤解される。また、簡単で知っている話ばかりの授業は退屈で、毎日朝8時過ぎ〜3時までじっとしているのはかなり辛い。聞けないのは自然な行動で、退屈なので自分の想像の世界に入ってボーッとしているように見えたり話を聞いていない。また、授業中『あれ?』と思ったことを尋ねずにはいられず『先生の話をさえぎり、最後まで聞けない子』と否定的に見られる」

私「先生から苦情がきたり叱責されるのは、息子が悪いと思っていたが、そういう理由で話を聞いていなかったり、話をさえぎっていたこと、不登校になった原因がよくわかった」

 

(5)

⻆谷「ギフティッドの自死の原因の一つとして『実存的うつ』というものがあり、脳裏に浮かんだ。思考力の高さ、理想主義、共感性の高さから人を助ける道徳心、倫理観が関係している。使命感、やりたいことが多すぎて一つを選択すると一つができないと早くから気付き始める。世界平和、人道支援、環境保全などを心底願うが自分一人の微力さ、無力感を心底感じる。またその思いを分かち合える仲間(同年代はおしゃれや恋愛に興味がある)を見つけにくい。想像力が高いので、理想と現実のギャップに絶望感を感じる」

私「息子は幼少期から平和主義で、人を笑わせたり励まし、助けたり。世界平和を願い、七夕の願い事は小学生の時から『戦争やいじめや犯罪がなくなるように』『食べ物に困る人がいなくなるように』だった」

 

他に息子の変わった行動の数々の楽しい話もしました。息子は読書家で騒々しい学童保育所でランドセルを背負ったまま正座して微動だにせず集中して本を読む姿に「二宮金次郎だ」と先生に言われていました。幼少期から悲しい本で号泣したり、うれしすぎてベッドの上でジャンプして聞いていた姿が印象的で、家に絵本が500冊くらいありました。手作り絵本も一緒にたくさん作りました。息子の話にふれない人が多いのに、息子のことだけを思い出し、語り、幸せな時間でした。息子が側でクスクス笑っている気がしました。

 

具体的なお話もして、「ギフティッドだったのでしょうか」と質問すると、⻆谷先生は「並外れていて、良いところも難しかったところ、大変なところも、私の個人的な感覚としてはギフティッドに当てはまるところが非常に多いと感じる。ただ検査結果がなく、ご本人にお会いしていないため何とも言えない」とのことでした。取材後、小4の時の知能検査結果を確認し、知能指数(IQ)124と判明。「マイルドリーギフティッドに該当するだろう」とのことでした。

 

「発達障害」でも理解されず苦労してきたが、「ギフティッド」は日本ではさらに知られていないとのことでした。今まで息子は何か他の子と違い育てにくく、頭が良いか悪いかも全くわからず、謎が多く、いつも頭の中を見てみたいと思うほどでした。長年の謎が少し解けた気がしました。また、今まで教師や相談機関へ伝えても困り感を理解されず、心配や悩みが伝わらなかった私の長年の苦しみを、「ギフティッド児の子育ては理解されず孤独」と、体験した人にしかわからないことを⻆谷先生は理解されていました。

 

息子は、幼少期から興味関心が高く、さまざまな体験やスポーツ、習い事も次々とやり、簡単に上達しましたが、衝動性ゆえ苦労しました。特にスポーツ全般は得意でしたが、特性により指導者に誤解や叱責され、完璧主義も加わり12年間で辞めた種目は8つです。

息子は自分のいろいろな行動の理由に「ギフティッド」という一つの答えを、⻆谷先生を通して教えたかったのかもしれません。偶然にも対談記事のウェブ掲載日は、息子の誕生日でした。

 

5歳の時の習字



◇ギフテッド応援隊

ギフテッド応援隊という団体から私の手記と対談記事をサイトに載せたいと連絡があり、掲載されました。その後、ギフティッド児の保護者たちから感想が届き、多くが「自分の子と重なる。学校から理解を得られなかった話では、思いが痛いほど伝わり苦しかった」と共感され、生きづらく苦しむ親子が全国にいらっしゃることを初めて知りました。

 

私は今まで、手記を書いてよかったのかずっと葛藤していましたが、誰かに思いが届き、うれしかったです。人々の平和をいつも願っていたやさしい息子が導いてくれたと確信します。自死の答えは本人しかわかりませんが、いくつも重なっているのだと思います。亡くなる1か月前、息子は「世界のいろんな国へ行ってみたい」と言いました。もし生きていたら、今何をしていたのでしょう。亡くなった今、私に多くのことを学ばせてくれます。これからも息子のような若者の生きづらさの答えを探していきたいです。そして、これ以上、悲しいニュースを聞かなくてすむよう、それぞれの方が考えてくだされば幸いです。

 

【ギフテッド関連情報】海外のギフテッド関連文献の和訳記事、を読む方はこちら(リンク)

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