2021長野の子ども白書③社団法人ギフテッド応援隊 「知ってほしい、ギフテッドのこと ~学校とのミスマッチはなぜ起こるのか~」

ギフテッドって?

先天的に高い知能を持つ人、「ギフテッド」。最近はテレビや新聞で取り上げられる機会も増えてきたので、どこかで耳にしたという方もいらっしゃることでしょう。「天才」などと訳されることもあるギフテッドですが、実はそれほど特別な存在ではありません。定義が確立していないため具体的な数字を示すことは難しいのですが、人口の数パーセントにあたる人がギフテッドの資質を持っているといわれています。40人学級なら1〜2人の該当者がいるイメージです。

 

私たち「ギフテッド応援隊」は、そんなギフテッドの子どもを育てる親の会です。

 

入会者の大半は、育児に何らかの悩みを抱え、共感できる人とのつながりや情報を求めて会を訪れた人たちです。知能の高い子を育てるのに何の悩みがあるのかと思われるかもしれません。しかし、単純に「賢い子」で片付けられないのがギフテッドの子どもです。

大きく揺れ動く感情、とどまることのない好奇心、問題だらけの学校生活――そのユニークで強い個性は、まるでジェットコースターのよう。育児書を読んでも当てはまらないことばかりで、理解者を見つけることもままならずに孤軍奮闘している親は少なくないと考えられます。

 


学校生活につまずくギフテッド

ギフテッド応援隊会員の悩みの筆頭は、子どもの不登校や登校しぶりです。IQ が高い子、勉強が得意な子が学校生活につまずくケースは、実は驚くほど多いのです。いったいどうしてでしょうか。本稿ではその要因について考えてみたいと思います。

 

【その1】浮きこぼれ

「本人の能力と環境が一致していない」という意味で、ギフテッドは本来配慮が必要な子どもです。実際、海外では公教育の中にギフテッドクラスを設けたり飛び級を認めたりして、学びの環境を整えている例が少なくありません。しかし日本では、理解の早い子は「浮きこぼれ」状態。自分に合った学びを得られないまま、長い授業時間を過ごしているのが現状です。

おまけに、ギフテッドの子どもは「じっと待つ」「興味の持てないことに我慢して取り組む」ということがとても苦手。頭の中がいつも忙しくて、いろいろなことを考えはじめたら最後、制御がききません。授業時間を持て余し、飛躍した思考に没頭したり、当てられてもいないのに発言したり。さらには関係のない本を読みはじめたり、あきらめて寝てしまったりすることもあります。本人はそうやって授業時間を何とかやり過ごそうとしているのですが、周りからは「協調性を欠いた子ども」という目で見られ、教室では優等生どころか、注意されてばかりの存在になってしまいます。

 

【その2】学びのスタイルの違い

物事の全体像を捉えることが得意なギフテッドは、物事の本質を知りたがります。しかし、「簡単なことから学び、少しずつステップアップする」を原則とする教育の中では、この性質がかえって邪魔になることがあるのです。学んだ先にはどんな面白いことが待っているのか――その答えが見えないものを長々と指導されても、彼らは興味を持つことができません。逆に、課題をこなすことの意義を見出せない子どもに「この学習を突き詰めていくとこんな知識につながるんだよ」とまず到達点を示し、そこからさかのぼるように説明すれば、一気にやる気を見せてくれることがあります。

また、豊かな創造性を持つギフテッドは、答えが一つではない、自由度の高い課題を好む傾向があります。「文章題を解きましょう」には興味を示さない子も、「文章題を作りましょう」なら目をキラキラさせて取りかかったりします。

しかし、残念なことにこうしたスタイルの課題は、学校ではなかなかお目にかかれません。その代わりに課されるのが、ギフテッドの天敵・計算ドリルに漢字ドリル。特に、字を書くことが苦手なタイプの子や、完璧に仕上げようとするタイプの子にとって、反復学習はとてつもない苦痛になります。ものの数分で終わるはずの課題を泣き叫んで拒否し、数時間経過――なんてことも日常茶飯事です。

 

【その3】ストレスだらけの学校生活

問題はまだまだあります。クラスメイトが気にせずに流してしまうようなことに引っかかるギフテッド。同年齢の子と話題がかみ合わずに浮いてしまう、ガヤガヤした教室が耐えられない、理不尽と思うことに徹底抗議して先生と衝突する、時間管理が苦手で怒られてばかり……。もちろん個人差はありますが、多くの子は学校でさまざまなストレスをため込みます。

中には一見うまくやっているようでも、周りに溶け込むことに途方もないエネルギーを費やし、疲弊してしまう子どももいます。このタイプは、周りが(ともすれば本人も)苦しさに気付きにくいため、注意が必要です。

 

【その4】「得意なこと」を伸ばす難しさ

集団生活に馴染めない子どもには、しばしば「特別支援学級で個別対応を受けたほうがよいのでは」と声がかかります。ギフテッドが発達障害と誤診されることは世界共通の問題になっていますが、日本の教育制度では、そもそもギフテッドと認定されることにメリットらしいメリットがありません。個別支援を受けられる環境を求め、あえて発達障害の診断をつけることを選ぶケースも、実は珍しくないのです※。

しかし、苦手な面をサポートすることを主眼とする特別支援には、「得意を伸ばす」ためのノウハウがあまりありません。支援が成功するかどうかは、指導者との「出会いの運」に左右されがちです。ギフテッドが学校で抱えるストレスを考慮せず、やみくもに集団に適応することを目標にする指導は、子どもの自尊心を大きく傷つけます。その子が本当に必要とする支援が何かを見極め、自信を持って次の一歩を踏み出せるように導く――特別支援の現場にも、こうした柔軟性の高い対応が求められます。

 

※ ギフテッドと発達障害を実際に併せ持っている子どももいます。発達障害による生きづらさが強い場合は、そのニーズに合わせたサポートが必要になります。

 


個性と向き合い、居場所をつくる

ここまで見てきたように、ギフテッドの子どもが学校で「問題行動」を起こすときは、多くの場合理由があります。頭ごなしに批判せず、まずは本人の思いに耳を傾けてみてください。彼らは大人をとてもよく見ています。幼い子でも、一人の人間として真剣に向きあってくれる相手を必要としています。

 

学校生活のストレスを減らす工夫もあります。当会の会員に聞くと、

「疲れたときに教室から離れられるよう環境を整えてもらった」

「授業中に別の課題や読書をすることを認めてもらった」

「宿題の内容をストレスのないものに変えてもらった」

といった配慮の例が挙がってきます。

 

もっとも、すべての希望を学校に受け入れてもらうことは難しいでしょう。公教育にこだわらず、家庭でホームスクールを行なう、フリースクールや本人の興味に特化した教室に通うなど、別の学びの場を見つけている親子も多くいます。

 

子ども自身にも、自分とじっくり向き合う機会が必要です。理想の高いギフテッドは、学校での小さな失敗にひどく落ち込んだり、自分の存在が取るに足らないものだと無力感にさいなまれたりするかもしれません。まず、自分の得意なこと、苦手なことを整理する。そして全部が完璧じゃなくたっていいんだと受け止め、自分自身とどう折り合いを付けて生きていくかを考える――聡明だけどちょっぴり不器用なギフテッドには、そんな自己理解のプロセスもまた大切です。

 

「好きなこと」や「好きな人」との出会いが転機をもたらす場合もあります。周囲の大人がチャレンジを温かく見守り、背中を押すことで、ギフテッドの世界は大きく広がっていくかもしれません。


おわりに

昨年、私たちは親子の実体験をまとめた電子書籍『ギフテッド育児奮闘記』を出版しました。当会ホームページ(https://www.gifted-ouentai.com/)にもさまざまな情報をアップしています。あわせてご一読いただければ、ギフテッドのことがもっと見えてくると思います。

学校教育の中でできる支援や配慮には限界がありますが、一人ひとりの個性に応じた教育のあり方を見つめ直すことは、ギフテッドだけでなく、多くの子どもたちの利益にもつながります。私たちはこれからも積極的に情報を発信し、子どもたちの健やかな成長を応援していきたいと思います。

 

編集部注:本特集における“gifted”のカタカナ表記は、執筆者の意向に従い「ギフティッド」または「ギフテッド」としました。

 

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